残酷無情の死神

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路地裏の古い石造りの壁に寄りかかった暗く沈んだ表情をした一人の青年が、顔を伏せながらたどたどしく口を開く。 「僕……達は所詮親に売られ、貴族に買われた奴隷。僕達に人権なんてものは存在……しない。もし、僕達に…希望が残っているとするのなら、あの人…に見つけられること……違うな、見つけて貰うこと…ですね。それだけ…です。」 絶望と僅かな期待に縁取られた青年の言葉に、壮年の男は何もかもを雲が覆い隠してしまった真っ暗闇の空を、ため息を吐きながら物憂げに仰いだ。 「あぁ、そうだな。彼は私達の味方ではない。しかし、敵でもない。国王陛下にしか従わない彼は、いや、彼の一族はどんな時でも中立で公平だ。……力のない私達は彼等に頼るしかないのだろう。」 「はい…。伯爵様に捕まって…一、二もなく処分…されるより、真実を決して見失わず捉え…この国の頂点であり絶対の法である国王…様に忠実な彼等に……せめて…!」 青年の震えた声は辺りに控えめに響き、消えていった。それは奴隷と名のつく者達、全員に共通する悲壮な思いだ。 「…………………。」 長い、沈黙。 今、奴隷達の考えていることはそれぞれ違う。 助かるのか。死ぬのか。助けてほしい。何故、奴隷なんてものが…。生き別れた家族に会いたい。助けて。本当の自由。命の危険を感じなくていい所に…。 皆、ただひたすら自由と安寧を求めていた。幸せに人生を過ごしたいのだと。 「………。」 また、その中で周りとは全く違うことを考えている者がいた。先程壮年の男と会話していた青年である。 ピクリ、と青年の右手の人差し指が小さく揺れた。 次の瞬間、青年は、あまりの世のやるせなさに今にも首を吊ってしまいそうな空気を纏う彼等を、長く手入れのされていない汚れた前髪の奥から盗み見てニヤリと微かに口角を上げた。 「来た…。」 そして、そのいかにも愉快だと言い出さんばかりの表情を崩さぬまま、誰にも聞こえない程の小さな声で呟いた。 だが青年は直ぐに表情を元に戻し、顔を隠すように俯いた。ただし、青年の鋭い光を灯す目は奴隷達から離れていない。 「………。」 青年は音を出さずに、背にある壁にへばり付く勢いで一歩退いた。
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