残酷無情の死神

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突然の光は瞳孔を収縮させ、一瞬だけ視力を奪った。目に走った痛みに奴隷達のほとんどが反射的に目を閉じる。 「あっ……!」 壮年の男は焦った。隙を見せてしまったと。目を閉じたまま、喉に刃を突き立てられることを覚悟した。それは他の奴隷達も同じらしく、小さく短い悲鳴が耳に届いた。 きっともう駄目だ。せめて、子供達に温情がかけられる事を祈るしかない。 これまで奴隷として生きてきて酷い扱いを受け続けてきた壮年の男も、痛みへの耐性はできていた。だが、やはり死ぬことは怖かった。 瞑っていた目をさらに強く瞑り、死への恐怖に暴れだしそうになる精神を押さえつける。 目の前で止まっていた男が動く気配がした。靴の音が鳴る。恐怖で五感が研ぎ澄まされ、耳元で鳴ったかのような錯覚に陥った。 コツ。 殺られる…!! 歯を噛み締め、次に来るだろう脅威に体を強張らせる。 「………?」 しかし、何も起こらない。 さすがに可笑しいと思ったのか、周りの皆が目を開けたのが分かった。それにつられる様に壮年の男もゆっくり瞼を上げる。 「っ…!」 瞼が上がり切る直前、先に目を開けた誰かの息を呑む音がした。 その音の数は多かった。もしかしたら、息を呑んだのは全員だったのかもしれない。 「え……?」 目を開けた壮年の男は驚いた。何故なら、自分のしていた想像とは対極にある神秘的とも言える光景が目前にあったからだ。いや、この場合「あった」ではなく「いた」と表現した方が正しい。 恐怖の渦に投げ込まれていた奴隷達が見たもの。 それは、 「天…使?」 呆然と、奴隷の少女がそう呟いた。 少女の視線は、自分達とそう離れていない距離に一人佇む男に注がれている。 そして、奴隷達が息を呑み、奴隷の少女が男を天使と呼んだ理由は、天使を思わせる男の美しい容姿にあった。 「…………。」 壮年の男もその姿を見て言葉を失った。 また、その男の正体が先程まで自分達に死の恐怖を与えていた不思議な声を持つ男だということに、戸惑いながらも奴隷達は気付いていた。 奴隷達が見とれるその男の容姿は、ただひたすらに美麗なものだった。
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