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血が通っていることが分かる薄く色付いた白磁の肌。
薄紅色の形の良い薄い唇。
スッと筋の通った高い鼻梁。
どこか冷めた印象を与える切れ長の目。
目を見開き体を硬直させている奴隷達を静かに見つめる双黒の瞳。
それを縁取る銀の雫が散りばめられた黒く長い睫毛。
緩やかな曲線を描き、肩の上を流れる艶やかな黒髪。鎖骨にかかる程まであるそれは、風に吹かれてふわりふわりと柔らかく靡いている。
そして上背のある体に合った、長くしなやかな肢体。
膝を突きたくなる程に神々しく、手を伸ばしたくなるまでに美しい。
奴隷達は身動き一つせずに美しい男へ目を向けたまま立ち尽くす。何も考えられないのだ。美しい男に思考の全てを奪われて。
「…………。」
奴隷達の呆然とした無遠慮な視線に晒されても、美しい男は一切顔色を変えず静かに奴隷達を見ていた。そのあまりの無表情と美貌に、精巧に作られた人形を前にしている気分にさせられる。
しかし、そんな美しい男もやはり生きているということなのか。
作り物めいた雰囲気を漂わせる美しい相貌の中、人形ではないと否定するように美しい男の眉が緩く顰められていた。無機物では表現できないその複雑な表情は、奴隷達に目の前に立つ者がれっきとした感情のある生き物なのだと如実に示していた。
彼は神ではない、彼は自分達と同じ人間なのだ。
そのことを理解した瞬間、目の前に立つ美しい男に感じていた畏怖や神々しさなどというものが一気に砕け散った。
直後、電気が縦横無尽に迸ったかのような激痛が頭を襲う。
「っ!! っは…はぁっ……。な、一体何が…っ。」
激痛はほんの少しの鈍痛を残し直ぐに治まった。また、それと同時に美しい男を見た瞬間から頭にかかっていた靄が綺麗に晴れる。
「えっ?」
「あっ…。」
そしてそれを切っ掛けに、壮年の男を起点として次々とその場にいた者達のどこか夢心地だった目に光が戻っていった。
「…はぁ。」
壮年の男は月光に照らせれ陰影がはっきりした事で凄惨さを増した顔を苦しげに歪め、詰めていた息を吐き出した。
さすが、と言うべきか。この中で一番奴隷として長く辛酸を舐めさせられ続けて来た壮年の男は、誰よりも早く落ち着きを取り戻した。そのまま油断無く痛みに俯いていた顔を上げ、注意深く美しい男の観察を始める。
その目は鋭く、相手に不快感を与える強い疑いの色を含んでいる。
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