第3話

11/23
208人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
木崎さんは誰にでも同じテンションで接する人。 相手が偉いからといって下手に出ないしご機嫌うかがいもしない。 信用できる、そういう所が。 「お疲れ様です」 エレベーターを待っていたストールに首を埋めた先輩は身体ごと俺に向けた。 「お疲れ」 そして、弟の就職祝いについて質問された。 弟、いたんだ。 その日は風が強くてビルの外に出ると、身体に抵抗を感じる程だった。 別方向に進もうとしている先輩も、巻き上がる突風に目を瞑っていた。 「先輩」 呼びとめて 「安心して食べられる所行きます?」 と、聞けば先輩は黙って頷いた。 還暦を過ぎた店主がカウンター内で作る様子がよく見える清潔感のあるお店。 「こんな所教えて良かったの?」 先輩が窺う様にこちらを見た。 確かに、教えたく無かったですよ。 まぁ、でも先輩ならいいかなんて思ってしまったんです。 隣の先輩は出て来る料理全てに満足そうな顔をする。 「先輩二人兄弟ですか?」 「ううん、三人。もう一人下に弟がいるの」 「一人娘だから父親は心配ですね」 「……どうだろう」 目を伏せると長い睫毛が際立つ。 「あまり話さないですか?」 「……私が10歳の時に事故で死んじゃった」 「…………」 黙ってしまった俺を労うみたいな顔して「なんかごめん」と、先輩は謝った。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!