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指先の絆創膏は取れていて一センチ程の切り傷が赤い線となっていた。
「木崎さーん」
店の外に出て酔っ払った小川が叫びながら先輩に抱き付いた。
先輩はそれを避けることなく微動だにしない。
「小川」
首根っこを掴んで引き剥がすと今度はこちらに絡みつく。
酔っ払うと小川は人に触れたがる。
「大丈夫ですか?」
「……うん。慣れた」
先輩は顔色一つ変えず大通りを通るタクシーを呼びとめている。
「羽山、小川連れてってくれる?」
「あ、はい」
「じゃあ」
「お先失礼します」
走り出したタクシーの中はカーナビの電子音声だけが響いていた。
「小川」
声を掛けても返事は無く、顔をしかめたまま窓にもたれていた。
「先輩に不用意に触れるなよ」
外に視線を向けながら小さく呟いた。
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