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プロローグ
そこは薄暗い闇の中だった。
一人の男が息を切らして路地裏を駆けていく。
時間帯のせいか、辺りに人っ子一人見当たらず閑散としている。
無精髭を生やしている所から察するに、その男の年の頃は中年であろう事が窺える。
その人相は厳つく、一般人が見れば間違いなく道を譲るであろう強面だ。
しかし、その顔も今では恐怖に歪んでおり、余裕と言うべき物が微塵も感じられない。
大声を出せば間違いなく誰かしらが助けてくれるだろうが、今の男はそれどころでは無かったのだ。
傷口は浅いが、そこから血が流れ出し、汗と混じり不快感は高まっていく。
後ろから追跡する者の気配は未だ絶えず、寧ろ距離を縮めてきているのではとすら思う。
息が上がる。
足がもつれる。
喉は渇いて張り付き、風が鳴く様な妙な声が呼吸の度に漏れ出す。
「ふっ、ふぅ……ぅあ!?」
不意に揉んどり打って男は地面に投げ出され、短く声を上げる。
どうやら小石を踏んづけ、転んだ様だ。
「……クソ、死んでたまるかよ!?」
強がりが口から零れる。
その意に反して身体は言うことを聞かない。
酷使した身体が思い出したかの様に痛みを訴え始める。
そこに小さな足音が聞こえてきた。
男の表情が凍り付いていく。
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