プロローグ

1/4
前へ
/89ページ
次へ

プロローグ

そこは薄暗い闇の中だった。 一人の男が息を切らして路地裏を駆けていく。 時間帯のせいか、辺りに人っ子一人見当たらず閑散としている。 無精髭を生やしている所から察するに、その男の年の頃は中年であろう事が窺える。 その人相は厳つく、一般人が見れば間違いなく道を譲るであろう強面だ。 しかし、その顔も今では恐怖に歪んでおり、余裕と言うべき物が微塵も感じられない。 大声を出せば間違いなく誰かしらが助けてくれるだろうが、今の男はそれどころでは無かったのだ。 傷口は浅いが、そこから血が流れ出し、汗と混じり不快感は高まっていく。 後ろから追跡する者の気配は未だ絶えず、寧ろ距離を縮めてきているのではとすら思う。 息が上がる。 足がもつれる。 喉は渇いて張り付き、風が鳴く様な妙な声が呼吸の度に漏れ出す。 「ふっ、ふぅ……ぅあ!?」 不意に揉んどり打って男は地面に投げ出され、短く声を上げる。 どうやら小石を踏んづけ、転んだ様だ。 「……クソ、死んでたまるかよ!?」 強がりが口から零れる。 その意に反して身体は言うことを聞かない。 酷使した身体が思い出したかの様に痛みを訴え始める。 そこに小さな足音が聞こえてきた。 男の表情が凍り付いていく。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加