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19階にある食堂へ向かうために、2人はエレベーターホールへ向かった。
途中、15階で高層階用のエレベーターに乗り換えなければならないため、少し面倒くさい道のりである。
絨毯の上を歩きながら、千佳子は何とか会話をしなければと冷や汗をかいていた。
「パソコンの設定、大変ですよね。まだかかりそうですか」
「いえ、先程終わりました」
あっさりと圭が答える。驚きのあまり、千佳子は何度か瞬きをした。
「随分早いですね。私なんて、1日きっかりかかりましたよ」
「たまたまですよ」
「…」
お昼は社員が一斉にエレベーターを利用するため、中々来ない。
エレベーターホールには社員達の列ができていた。がやがやと賑わいはじめる空間とは対照的に、思うように会話を続けることができず、千佳子は焦りを感じていた。
いつもの自分らしくないということはわかっている。そしてその理由もわかっていた。隣にいるこの人は、あの幼馴染なんだろうか。
その疑問だけが自分の頭を支配している。尋ねれば簡単にわかることなのに、尋ねられない。何を躊躇っているのだろう。
「あのっ」
手のひらに爪が食い込む。握りしめた右手が少し湿っていた。
「千佳子っ!」
跳ねる声。振り返ると、梨花がにっこりと笑っていた。
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