第3話 記憶はマル。

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「新しく部署に来た人が幼馴染だった…ってものすごい偶然ね」 「でしょ。もう動揺しちゃって」 会社から歩いて5分程のところにある小さなイタリアンは、コスパが良いと評判で、いつもサラリーマンやOLで賑わっている。タイミングが良かったのか、2人は運良くすんなりと店に入ることができた。 「素敵じゃない、彼。さっき、千佳子のデスクにいった時チラ見しちゃった」 「えっ」 ゴルゴンゾーラピザに蜂蜜をかける千佳子の手がぴくりと反応した。それを愛子は見逃さなかった。 「もう、そんなに警戒しなくても大丈夫よ。確かに彼はカッコイイけど、わたしの好みのタイプじゃないから」 「そんなんじゃないってば」 反論しながらも、蜂蜜をこぼす程の動揺っぷりをみせてしまったので、我ながら説得力がないなと千佳子は思った。そんな千佳子の様子を、愛子はにこにこしながら見つめていた。 「わたしはソース顔が好きだから」 「愛子の彼、ソースだもんね」 一度だけデート中の愛子に偶然出くわしたことがある。愛子と手を繋いでいた男性は、モデルのようなスタイルで、彫りの深い顔立ちに髭が様になっていた。美男美女のカップルに思わず溜息をつきたくなったのを鮮明に覚えている。 「あれ、そういえば…千佳子の彼は?」 ピザを頬張る千佳子の眉毛が下がった。痛い質問をしてしまったかなと愛子は少し申し訳ない気持ちになった。 「言いたくなかったら、話さなくていいよ」 「ううん。そんなことはなくて。詳しく話す程のこともないけど…別れたよ」 あっけらかんと答える千佳子に、愛子は苦笑いする。そういえば、この子は、可愛らしい外見に反して意外に淡白なタイプだったっけ。 「じゃあ、ますますその幼馴染と千佳子の今後の関係が楽しみね」 モッツァレラチーズとトマトをスパゲッティをフォークに巻きつけながら、愛子は楽しそうに言った。
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