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誰かの香水の残り香が漂う更衣室で、千佳子は歯磨きセットをロッカーにしまっていた。ピザとスパゲッティが胃の中で喧嘩をしているのか、ぐるぐるとお腹が鳴っている。
会議中に鳴りませんように。心の中で千佳子が手を合わせていると、馴染みの香りが漂ってきた。
「ちーかーこちゃん」
主張が控えめなホワイトブーケの香りの主は梨花だった。いつもとは違う呼び方に、少しぎくりとする。
「なぁに?」
「白々しいわねぇ。何の話をされるかわかってるくせに」
小悪魔という言葉がぴったり当てはまる笑みを浮かべて、梨花は千佳子の肩を突っついた。
「何のことがさっぱり」
「お昼休みも後少しだから、端的に話すわ。永塚さんのことよ」
「ああ…」
そのことしかないだろうとは思っていたが、やはりそのことか。千佳子の気が重くなった。
「ああ…じゃないでしょ。私が手に入れたレア情報知りたくない?」
「レア情報って……」
知りたいと言えば知りたいが、それを素直に口に出せば、自分が圭のことを気にしていることが、梨花にわかってしまう。
「………」
ここは、毅然とした態度で対応すべきかもしれない。千佳子が頭の中で、色々なことを考えていると、梨花が一方的に話し始めた。梨花のこういうところが好きだ、と千佳子は思った。
「昨日あの後、2人で社食食べたでしょ。それで感じたんだけど、あのね、永塚さん、ぜったい千佳子のこと気にしてると思う」
「な…なんで、そうなるの」
言葉に詰まる。毅然な態度で乗り切るつもりだったが、その決意はあっさり破れた。
「だって、お昼食べてる間、千佳子のこと聞いてきたんだよ!」
「何て?」
「どんな子?って」
「……」
「……」
「それだけ?」
「う…うん」
「それは、私のこと気にしてるというよりか、自然な流れで聞いたんじゃないかな…」
「間違いないの!これは女の、私の勘なの!」
納得していなさそうな表情を浮かべている千佳子に、梨花はきっぱりと言い切る。自信に満ち溢れる梨花を、千佳子はただ見つめるしかなかった。
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