第2話 再会はさんかく。

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「千佳子おはよ」 更衣室のロッカーにコートを掛け、ドアを閉めた直後だった。肩を思いきり叩かれ、千佳子はよろめきながら抗議した。 「梨花…相変わらず朝からパワー全開ね」 千佳子の肩を叩いたのは、同じく3年目の同期、仙堂 梨花(せんどうりか)だった。千佳子とは、泊まり込みで数ヶ月間行われた新卒研修の時のルームメイトであり、配属先の部署も同じフロアだったため、とりわけ仲が良かった。美しいセミロングの髪とふっくらとした涙袋がチャームポイントで、イケメンとラーメンに目がない。 「当たり前でしょ。今日が何の日か忘れたの?」 「何の日?」 ロッカーの扉に背を預け、通勤の途中で乱れた前髪をコームで整えながら千佳子が尋ねると、梨花は、呆れたように答える。 「新しいキャリアの人が千佳子の 部署に来る日でしょ」 「ああ…そういえば」 キャリアとは、中途採用で企業に入社する人を指す。それに対して、千佳子や梨花のように新卒採用で入社する社員はプロパーと呼ばれている。 反応の薄い千佳子に、梨花が不満気な表情を浮かべる。前髪を梳かし終えた千佳子は、社員証ホルダーを鞄から取り出し、首にかけた。 「もう!なんでそんなに興味なさそうなの!」 「だって興味ないんだもん」 即答する千佳子に、梨花は負けずと言い返す。 「イケメンかもしれないんだよっ!」 すぐにでも部屋を出て行こうと更衣室のドアノブに手をかけていた千佳子は、ゆっくりと梨花の方を振り向くと、一言呟いた。 「入社して3年…、もうすぐで4年目だけど、何度期待して裏切られてきたことか」 「それを言わないで…」 千佳子の言葉が梨花の心に深く突き刺さったようだ。千佳子が更衣室の電気を消し、梨花がドアをゆっくりと締めた。更衣室を出て、それぞれの部署に向かっていった2人の背中には、どこか暗い雰囲気が漂っていた。
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