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「げ、トマトとりすぎた」
社員食堂のサラダバーの器に、プチトマトを盛りすぎた梨花が呟いた。
「まぁ、追加料金とられないし、美容にもいいからいいんじゃない」
そんな梨花の隣で、同じく紫芋を盛りすぎてしまった千佳子が適当な慰めをした。
「千佳子が上の空だ」
「上の空じゃないよ」
梨花の鋭い指摘に、千佳子はぎくりとする。一見ただのミーハー女子にも見えるが、梨花は頭も良く、勘も良いため侮れない。
盛りすぎてしまった紫芋の上に、慎重にブロッコリーをのせながら、千佳子は言い訳をした。
「久しぶりに変な夢みたせいかな」
「ふーん。どんな夢?」
「アメリカで同じマンションに住んでた幼なじみの夢」
「そういえば、千佳子って帰国子女だったけ」
「小学校5年生までだけどね」
「立派な帰国子女でしょ。同期の中でも英語できるって判断されたから、今の部署にも配属されたんだと思うよ」
千佳子の部署は、グローバル連携している関連会社とのやり取りを行う業務も担っており、確かに英語を頻繁に使用する部署だった。
とはいえ、他のメンバーの英語能力がハイレベルなため、今の部署内では、千佳子は英語はできない方だった。
「それにしても、なんで突然そんな夢みたんだろうね」
「さぁ、わたしもわからない」
会計コーナーにトレーを持って行く途中も、千佳子の頭の中は、今朝みた夢と、「ケイ」という名前のことで一杯だった。
「まさかそんな偶然があるわけないよね」
疑惑を打ち消すように千佳子が頭を振っていると、レジ担当の人が心配そうに見つめてきた。
慌てて財布を出す千佳子の姿を梨花は面白そうに眺めていた。
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