第2話 再会はさんかく。

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午前中が納期である仕事がまだ半分も終わっていない状況であるにもかかわらず、先ほどから一向に頭が働かない。原因はわかっている。千佳子は右手を強く握りしめた。 「それじゃあ、分からないことがあったら、この日比谷くんに何でも聞くといいよ」 「ふへっ」 我ながら間抜けな返事をしてしまったと千佳子は後悔した。恐る恐る身体を横に向けると、笑顔を浮かべる部長の顔が視界一杯に広がった。 「彼女が日比谷くんだ。3年目だから、歳は君より2つくらい下かな。だけど中々しっかり者だから、業務の基本的なことは教えて貰うといいよ。君も彼女ならいろいろと聞きやすいだろう」 普段であれば、部長のさりげない褒め言葉が嬉しかったに違いない。しかし、今の千佳子はパニック状態で、それどころではなかった。2人分の視線を感じ、慌てて笑顔をつくる。 「日比谷です。よろしくお願いします」 「永塚です。よろしくお願いします」 どきりとするような低い声に、思わず顔を上げる。そこで、初めて彼の顔をしっかりと見ることができた。 すらっと通った鼻筋に、切れ長の二重瞼、黒い瞳が凛としているのが印象的だった。だが、「少年」の面影を探すには、あまりにも時間が短い。それ以上、見つめ続けることもできず、視線を部長に戻した。 「君のデスクは、すぐそこだ。荷物は昨日届いたものを運んでおいたよ。今日1日はPCのセットアップで終わってしまうだろうから、明日から仕事を割り振るよ」 「お気遣いありがとうございます。頑張ります」 2人の会話にどこまで付き合うべきくタイミングを考えていた千佳子だが、一方である疑惑が浮かんだ。 あの少年の面影が残っているような気もするが、特に反応をみせないということは、彼は幼馴染ではなく、本当に同性同名の他人なのかもしれない。あるいは、自分の名前や存在自体を覚えていないか。 そんなパンク寸前の千佳子とは反対に、永塚 圭は爽やかに会釈をすると彼自身のデスクに向かっていった。 (結局、あの「圭くん」かわからなかったな…) この数週間で1番深い溜息を吐くと、千佳子は椅子をくるりと回し、業務に取りかかり始めた。
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