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第1話 プロローグ
辺りは、夜明けの薄暗さに包まれている。少女と少年が、互いの小さな手を握り合っていた。寒さのあまり、握り合う手は震えていた。
「日本にかえっても、わたしのことわすれないでね」
マフラーに顔の半分を覆われている少女が、涙で瞳を潤ませながら少年に言った。
「わすれるわけないよ。」
「わたしが日本にかえったらまたあそべる?」
「たくさんあそべるよ!まってるから早くかえってきてね」
「うん!」
少女が首を大きく振りながら力強く答える。彼女の返事に、少年は柔らかく微笑んだ。そして意を決したように唇を噛んだ。
「あのさ」
少年が何かを言いかけようとした時だった。
「もうそろそろ行くわよー」
二人が声のする方へ目を向けると、少年の母親が車のドアを開け待っていた。
「 」
去り際に少年が少女の耳元で呟いた。
「なんで、言ったの」
少女は顔を上げて聞き返したが、既に少年は数メートル先まで離れてしまっていた。
車が動き出す。窓ガラスの向こうで、少年は小さい手を一生懸命振っていた。少女もそれに応えるように小さな手を振る。少年の姿を少しでも長く見ていたいという少女の気持ちとは裏腹に、車は少しずつ遠くへ離れていき、やがて小さな光となって完全に見えなくなった。
「ばいばい…」
聞き取れないくらいの声で少女が呟いた。呟きと共に彼女の口からこぼれた白い息が、夜明けの暗さに紛れて消えていった。
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