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「……梓」
シャツの第1ボタンを外しながらボソリとそう答えると、真後ろで芽衣が立ち止まる。
「会ったの?」
「うん。母ちゃんに呼び出されてあっち寄ったんだ。そしたら、いた」
「ふうん……?」
感情の揺らぎの感じられない声でそう言う芽衣の顔を、ちらりと振り返る。
とりあえず不機嫌になったわけではないらしい。ま、不機嫌にさせるようなことも、怒らせるようなこともしてないんだけど。
だが、なんか長年身体に染みついたステレオタイプな感受性が俺に“ビビれ”と命ずる。
昔の女と会っただけなのに、やましいことなど何もないというのに、いまだにこういう癖が抜けないのは何とも情けない話だ。
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