第2話 未知の土地

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優しい風が頬をなでた。ざわざわと、木々が揺れ、川のせせらぎ、そして鳥たちの鳴き声が聞こえる。その心地よさにずっとここにいたいと感じさせられた。都会育ちの岩田にとってはあまり体験できないことだ。だが、何時までもこうしているわけにはいかない、薄らと目を開けると足元に見たこともない生物が自分の足を枕にして眠っていた 「うわ!?」 見たことのない未知の生き物に思わず声をあげてしまい、その声に驚いた生き物は体を大きくゆらし自分から離れ川の中へと飛び込んでいく。そして恐る恐る川の中から頭だけをだし自分を観察する姿に少しながら可愛いと思ってしまう (カピパラ……? いや、カピパラもどき?) 水中にいるカピパラもどきをよくよく観察する。普通のカピパラより目はくりくりと大きく顔はカピパラに比べて小さい。岩田が、害がないと分かったのか、カピパラもどきはのんきに川を泳ぎ始める。 もしかしたらこれはUMAという奴ではないだろうか? スマートフォンで画像に収めよう。バッグに手を伸ばそうと地面に手を置くが、目的のものは見つからない。そこで岩田は漸く今の自分の置かれている状況について思い出す。鏡に吸い込まれ、意識を失 い、今気が付けば森の中。周りに人里は見えず、岩田は夢中になって上着とズボンのポケットを探る。唯一残っていたのは、奇跡的にブレザーの胸ポケットにいれていたが電池切れの携帯、そして財布と学生手帳と、中学時代から愛用している手帳のみだった 「なんという絶望感。財布があったのは助かったけれどバッグがあればカロリーメートとか……いや、ちょっと待てよ? 確かあの日のバッグの中身って……」 冷たい汗が背中をなぞり、血の気がサーっと引いていく。もしも、もしも自分のバッグが学校にあったとすれば? あっちの世界で行方不明になり、テレビでも取り上げられ、警察に持ち物検査をされたりでもしたら?  「うわあああああああ!!! 駄目だ!! それだけは駄目だ!!!」 頭を抱え、本日二度目の絶叫をあげる。何を隠そう、あの日は岡原に渡されたエロ本が数冊入っているのだ。もしもそれを警察に調べられたりでもしたら、全国で放映などされたら今までの生活がすべておじゃんになってしまう。
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