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蝉が五月蠅いほどに鳴く夏の終わりの日、少年の足もとには赤い血を流して倒れている少女がいた。
足は曲り、頭から血を流している少女は少年に向かって、震える声で大丈夫だからと微笑む。だが目の前の少年には少女の声が聞こえていないのか、顔は青ざめ、震えていた。
少年の足に少女が流した血だまりが 迫ってきているのに気がつき少年は叫び声をあげ少女に向かって手を伸ばしたがそれはかなわなかった。
「早く、早く救急車と警察を呼べ!!」
「頭を打っているかもしれない、絶対に動かすな!!」
少年は男の教諭によって少女から引き離され、拘束される。少年は必死に少女に向かって手を伸ばし、悲痛な声をあげた。
――そんな顔をしないで。私は大丈夫だから……
「大丈夫だぞ、今救急車を呼んだからな! 意識をしっかり持て!!」
直後に赤い光とサイレンの音が聞こえ、バタバタと走る足音が鮮明に聞こえる。少女は自分に向かって呼びかけている少年と、教論を見た後ー階段の上で自分を見下している、背の高い少年を見上げた
目が合うと少年は鼻を鳴らし、傍にいた取り巻きらしき少年たちと背を向け去っていく。その後ろ姿を見送り、少女はもう一度、自分の名を呼び、泣き叫んでいる少年に視線を戻す
その顔を見ると、楽しかった思い出が走馬灯のようによみがえる。
「また……ね」
掠れた声で少女はつぶやき、少年に微笑んだ後瞳を閉じた。
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