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僕
「本当に来たのか」
『本日休診』の白札の掛かった扉を気怠そうに開けた僕は、恐らく酷く緊張しながら此処へ来たであろうキミにその言葉を浴びせ掛けた。
僕のその言葉で、今キミは、振り絞った勇気を全て削がれたに違いない。
それでいい。
それが僕の狙いだ。
「冗談だ」
僕がそう言ってキミを招き入れる仕草を見せると、キミはちょっとだけ悔しそうな顔をして、でもとても素直に中へと入って来た。
本来なら『じゃあ、帰ります』と言って僕に背中を向けたいのだろうけど、それは無理だよね?
だってそれが出来るくらいなら、きっとキミは今日、此処へは来ていない。
いつもの診察室へキミを招き入れる。
「じゃあ診せて」
僕がそう言いながら掛けてあった白衣に袖を通すと、キミはキョトンとした顔で僕を見上げた。
「え?診察?」
「他に何がしたい?」
僕の質問に、キミは顔を赤らめ下を向いた。
そうやってまた、気持ちを押し殺して下唇を噛み締める。
馬鹿だな、我慢しないで今思っている事を素直に口に出せばいいのに。
でも、そこがまたいい。
本当にキミは、いぢめ甲斐がある。
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