遺言

3/6
前へ
/83ページ
次へ
「お前は、どうして死んだんだ・・・?」 答えを返すこともない、冷たい身体を見つめる。 今は、夏だ。 すぐに埋葬しなければ、腐ってしまう。 瑞希に会わせるべきか否か。 しばし九一は逡巡する。 死んだと伝えるだけでは、彼女は納得しないかもしれない。 やはり、どんな形であれ、別れは必要、か。 そして、重い腰を上げた。 「みゃう。」 部屋を出ると、すぐに鉄が足にまとわり付いてきた。 「すまない、少し急ぐんだ。」 九一は、鉄の頭を撫でる。 その時、鉄の首に、何かついているのに気づいた。 「鉄?」 九一はしゃがみこみ、その正体を確かめる。 忘れもしない、かつて彼女に贈ったはずの髪紐。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加