第6話

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かさぶたが剥がれる音がした。自分ではがしたのかもしれない。おまえだからよかった、とは自分でもよく言えたものだ。手を繋いで歩く2人の後ろ姿を見送りながら、傷口に塩を塗られた気分だった。痛い、消えることのない塩を。塩が言っている。ウソをつくなと。 就活生になることは、俺にとっては都合のいいことだった。考えないようにしていた。本当に忘れていたかと思った。面接を繰り返し、将来を決めていく。そのあとは卒業論文だ。大学生活の全てを入れ込んだ。甘酸っぱい部分を除いてーー。 「青山さんってなんでマスコミ志望したんですか?」 「いや、元々はジャーナリストとかそっち関係目指してるんですよ。世界を飛び回る仕事っていうか」 「へえ、すごいですね」 「でもまあ、ダチの影響もあるかな。世界中の子供たちの笑顔をみたいってダチがいてね」 小林奈津美はコーヒーをすすった。日高先生への取材は終わり、2人で一息いれていたところだった。なぜ奈津美にこんな話をしているのかわからない。ただ奈津美の姿にいろいろなものが重なった。 「お友達は今何されてるんですか?」 「丸の内で絵本関係の商社マンやってるよ。結婚も近いし、今ちょうど頑張ってるんじゃないかな」 「結婚ねえ、、、青山さんは?」 「俺?まだまだ」 奈津美が小さく笑う。夏実とは違う表情に思わずホッとする。
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