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 そして今、僕はここにいる。小さなコンピューター会社の社員として、新人歓迎会とやらの席に。 小さな会社に御似合いの、小さな居酒屋の2階の座敷に。 …畜生!何で僕はこんなところに居るんだ!?  僕の目の前には、「真っ赤」を通り越して「真っ青」な顔の新人男子。ええと、名前はなんてったかな。とにかく、ほとんど急性アルコール中毒の患者みたいな有り様になっている。 原因は隣の伊藤さんと鈴木さん。面白がって無理矢理新人君に酒を飲ませている。 「…も、カンベ…ンぐっ…」 新人君はもう涙目になっているが、両隣の2人はまだとても勘弁なんぞしてやりそうもない。伊藤さんがまた新人君のコップにビールをなみなみと注いでいる。 酔い潰れかけの新人君は、もうコップを受け取る気力もない。  で、だ。鈴木さんの隣には、若い女性が座っている。名前は知らないが、うちの社員。コップにはなぜかオレンジジュース。要するに、こいつは素面なわけだ。 鈴木さんは彼女にビールビンを渡し、新人君のコップに酒を注ぐ振りをさせた。 伊藤さんが新人君に、また無理に酒を勧める。いわく、若いオンナノコがお酌してくれたんだから、一口ぐらいは飲まないと云々。 …腹立たしい。イライラする。新人君のトンチンカンな受け答え。三人がそれを見てドッと笑う。そこの女!てめえだって新人だろうが!素面でゲラゲラ笑ってんじゃねえ!  いたたまれなくなって席を立った。すかさず伊藤さんが声を掛けてきた。 「おい、コーへー!どうした!」 よっぽど無視してやろうかと思ったが、おとな気ないのでやめておいた。代りに振り向きもせずに一言残して。 「……便所。ゲロ吐きに。」  情けないことに、たいして飲んだ訳でもないのに、僕も足許がおぼつかない。ヨタヨタと歩いているのが自分でも分かる。廊下の突き当たりを右に曲がればトイレと洗面所。本当は、別に吐き気がする訳じゃない。弱い者苛めの現場に居るようで、それを止めにも入れないのがやるせなくて、とにかく、顔でも洗いたかったのだ。  廊下の曲がり角には先客が居た。膝を軽く曲げ、壁に背を預けてだらしなく座り込んでいる女。僕は彼女の足にけつまずいて、危うく転びそうになった。 先に声を出したのは彼女の方。 「あ、わり。」 の一言と、屈託にまみれたような凄みのある照れ笑いが、喉まで出掛かった僕の怒鳴り声を胸元まで押し戻してしまった。
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