第十二話

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「待っていたよ。朝霞君、彼が高瀬君だよ」  彼女と目が合って、僕は言葉を失った。  ガラスやビー玉といった安物の類ではなく、スワロフスキーを連想される、銀色の眼をしていた。それに引き替え髪は、控え目な色合いを醸し出していた。  赤に近い茶色だ。例えばヨーロッパの古城などでよく見かける、赤レンガのような茶褐色だった。そこからはただの地味さではなく、人目を惹きつける輝きを持ちながら、決して驕らない清楚さが存在していた。  文字は人を表すというが、本当にその通りだ。 「高瀬捺騎です!噂の朝霞さんと組めるとは光栄です」 「……朝霞瑠夢です」  あれ、一瞬だけ目つきが鋭くなった気が……いきなり馴れ馴れしすぎたか?それにしても、緊張しているのだろうか。さきほどから言葉が少なく、表情も硬かった。殺気ほどではないが、ピリピリしているのは、一目瞭然だった。  そのあと社長に声援を送られても、軽く会釈しただけで、言葉を発することはなかった。コミュニケーション下手なのか、普段からそういう人なのか、感情が分かりにくい人だ。いつまで契約関係を続けられるか、僕の中に不安を残した、顔合わせであった。  彼女は一度本部から出て、歩き始めたが、すぐに方向を変えた。土地勘がなく方角を間違えたのではなく、その場所に行くこと自体を躊躇して、行先を変更した。  彼女に連れてこられたのは、寂れてはいないが、さして大きくもない雑居ビルだ。彼女が吸い込まれるように入った、その一角に探偵事務所があった。 「璃夢を探さない理由なら、今は聞かないでおく。それで用件は何だ?」  先ほどから気になっていたが、所長は明らかな殺気と敵意を、隠そうともしなかった。 「斉藤由利さんと交友関係があった、全ての人を知りたい」 「あった、か。調べておこう」  社長といい、所長さんといい、彼女はなぜか含みある言い方をされていた。それに力を使って捜査するのかと思ったら、今はその気がないようだ。その方が効率的だろう。なぜそうしないのか。しかも失礼な態度の探偵と、つながっているのも不可解だ。力があるなら、情報を求める意味が分からない。 「力に依存したくないからだよ」  僕の疑問を見透かしたように、前を行く彼女はそう答えた。事前に感受性が強いとは、社長から聞かされていたが、このことだったのか。 「でも使った方が早くないですか?」
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