第十二話

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「レーザー切断機のバラバラ殺人事件をご存知ですか?」 「はい」  確か柊先輩が過去に担当した事件だ。  夫はその事件の首謀者だった。ところがどういうわけか、全く関係のない人物が逮捕され、死刑宣告を受けて執行されたのだ。その事実を新聞で知ってしまい、ショックで心臓麻痺を起して亡くなった。警察は被疑者死亡で、病死ではなく表向き自殺として処理したのだ。 「冤罪…ですか」 「ええ。高瀬智哉(たかせともや)さんには、何とお詫びしていいのやら」  高瀬…彼の父親か?柊先輩が冤罪をつくったとは思えないが、これで納得できた。 『前任は柊さんですか』  冷ややかな態度は、そこからきていたのだ。  私は彼女に夫が殺害したと思われる、少女のことを尋ねると、一緒に来てほしいと頼まれた。私が頷くと彼女は部屋の外に出て、立ち入り禁止の張り紙がされた、向かいの部屋に入った。  部屋の南側に窓あり、その真下は勉強机だった。東側にベッドがあり、天井は男性アイドルのポスターで埋め尽くされていた。階段と同じでここも整理されており、由里さんの自室だと分かった。  彼女は押入れダンスのふすまに手をかけて、ゆっくりと開放した。異臭が一気に溢れ出して、私は思わず窓を開けた。再び押入れに目をやると、三十センチ四方の箱があった。  明らかにそこから匂いが漏れ出していた。彼女がその箱を開けると、一部が白骨化した少女が現れた。 「今となっては証明できませんが、夫の話が正しいなら、彼女は柊鞘歌さんだそうです」  柊…ああ、そうか。柊先輩に時々さしていた影は、彼女の存在だったのか。 「いいえ。DNA鑑定で証明できます」  私はまだつがならない欠片を、必死に頭の中で組み立てた。まだ不足したパーツを入手する方法はあった。彼女に遺体を持ち出して、鑑定したいと頼むと、快く引き受けてくれた。私はそっと箱を手に取り、斉藤家を出た。
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