第十三話

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 彼が僕に聞かせた話は、判断が難しい内容だった。  僕たち遺体捜査官は、常に誰かの遺体を探して、歩き回っていた。捜索が終われば各々が、帰る場所へ散らばっていき、仕事の依頼が舞い込むと、再び捜索が始まり、あとは永遠と繰り返しだ。それが遺体捜査官らの日常だった。つまり葬儀屋とあまり変わらないほど、人の死が生活費につながっているのだ。  そしていつも通りに仕事を引き受けて、捜索しているとそれが、身内である可能性が浮上してきた。柊さんは、それでも遺体捜査官として捜査するか、個人的な感情で捜査を混乱させることをおそれて、それ以上は断念して、他の者に任せるかどうかということだった。  仮の話と言っていたわりには、なぜか設定が詳細すぎた。僕は直観的に事実だと思った。なぜなら柊さんの言葉は、妙に実感がこもって聞こえたからだ。その捜査官がもしも柊さんだとしたら、彼女は柊さんから覚悟を見いだせなくて、契約を破棄したのだ。身内でも動じないなんて、やっぱり彼女は強い人だ。 「確かに捜査はやりずらいかもしれませんが、身内なら探しますよ。絶対に……会いたいですから」  僕がそう答えると、思いもしない解答だったのか、少し驚いていた。しかし眉間にしわを寄せて、腕組みをしたまま、渋い顔で唸った。納得できないのだ。なぜといわれても分からないが、まだ疑問が残っており、表情もすっきりとはしていなかった。 「そうか…引き留めて悪かった」  食事を終えた柊さんは、トレイを持って席を立ったので、僕は彼女を探した。その姿はすぐ鑑定室で見つかった。  しかし僕はそこで状況が分からず、立ち尽くした。鑑定室の机には、斉藤家から持ち出した、例の箱が置かれていた。その近くに蓋があり、中を開けたことが見て取れた。問題は彼女だ。尻餅でもついたのか、床に座り込み、震えていた。動揺しているというより、怯えているように思えた。そんな彼女の手元には、純金のロケットペンダントが転がっていた。一体何があったというのだろうか。 「あの、あさ―――」 「高瀬さん…ああ、すいません」  我に返った彼女は一瞬だけ、死人のような眼をしていたが、またすぐに生気を取り戻した。彼女は床のペンダントを拾い上げ、箱の中へと戻して、すぐに蓋をしめた。どうやらもう、調べは済んだようだ。 「それにしても遅かったですね」
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