第十三話

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 僕は柊さんと話したことを、率直に彼女へ伝えた。すると、話を聞き終えた彼女は、薄く笑った。何かおかしかっただろうかと、思い返してみたが、どこも不審な点はなかった。 「逆だよ。柊先輩の例え話で出てきたのは私だから。ついでに高瀬さんが思っているほど、私は強くない」  彼女が言いたかったのは、身内の可能性が出てきて、柊さんに捜査を委託したというのだ。彼女も捜査官であると同時に、一人の人間として、弱さを持った普通の人なのだと思った。  ひとしきり笑った後で、彼女は僕のことを、洞察力があるわりに推察力は壊滅的だね。と、言ってのけた。さらっとひどい言葉に僕は傷ついた。 「それじゃあ、覚悟を誓った高瀬さんにもう一つ」  彼女は顔の前で人差し指を立てて、いたずらっぽく笑った。そういえば最近、よく笑うようになった。言葉使いも敬語のみだったのが、堅さの取れた言葉が増えた。雰囲気もピリピリしておらず、寧ろ穏やかになっていた。柊さんが彼女に出会ったことで、彼が変わるきっかけになったように、彼女も変化しつつあるのだ。しかしそのきっかけを与えた人物が、僕ではないことを気付いてしまった。  ―気付いたのは、幸せなのだろうか―  彼女は柊さんと同様で、僕に例え話を聞かせた。  とある事件の捜査にあたっており、犯人はすでに逮捕されていたが、共犯者が存在していた可能性が浮上した。その共犯者がこの人だけは自分を裏切らないと、長年信じていた友人だった。友達として、警察に突き出すようなまねはしたくない。しかし罪意識を感じているなら、自首させたいとは思っていた。その時、僕はどうするかという質問だった。 「実際に会って、きちんと話し合うべきです」 「そう…だね、うん。それはそうだよね」  悲しく震える声で、困ったように笑って見せた。その笑顔に、僕の心はズキンと痛んだ。それはきっと、彼女に依存されたい、僕を頼ってほしいと、心が叫んでいたのだ。だから無力な僕は、彼女を抱きしめることしかできなかった。突き飛ばされるかと思ったが、一瞬ビクリと体を委縮させただけで、僕に身を委ねていた。
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