第十四話

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 実家の斉藤家も、それほど大きくはなかった。生活ぶりから考えて、ただの一般市民で、資産家なわけではないのだ。それなら逆に、彼女の資金ぶりを調べた方がいいか。とても情報屋だけで、生活ができるとは思えない。 「ちょっと待って下さい。鞘歌さんって誰ですか?それに姉妹なんて飛躍してますよ。どうして断言できるんですか?」  状況が読めない彼は、一人で混乱していた。鞘歌さんは斉藤家で発見した、新たな遺体であの箱の中身だと話すと、彼は驚愕のあまり絶句した。姉妹に関しては、確かに私の奥底だが、ようやく状況を理解できたようだ。  それに姉妹なら妹を殺された恨みから、強姦死体遺棄事件の犯人と共謀して、由里さんを殺害したとしてもおかしくはない。問題は二人がどこで、どうやって出会ったかだ。私にはそのつながりが、まだ明確には見えていなかった。 「明日私の旧友…だった人かな。彼女に会いに行くから」 「お供します」  それは部下が上司に対して、使う言葉ではないのか?やはり私には、彼を理解できそうにない。 「失礼します」  話がひと段落ついたところで、バーテンダーが運んできたのは、私が注文したハニージンジャーだ。ノンアルコールで、炭酸のジンジャエールに、甘い蜂蜜が底に沈殿していた。私はストローでかき混ぜて、蜂蜜をとかした。くせのある独特なジンジャエールだが、蜂蜜に中和されて、飲みやすくなっていた。  ―これ、好きかも―  気に入ったのが顔に出たのか、彼はくすりと隣で笑った。そういえば、誘ってきたのは彼の方だ。しかし、注文する気配がなかった。飲む気がないのだろうか。それなら、バーでなくてもよかったはずだ。やはり――彼は読みにくい人だ。柊先輩ならもっと、つかみどころが合って分かりやすかった。彼は、読めなくて、怖い。 「その雫瀬さんってもしかして、僕に話した例え話の人ですか?」 「お、察しがよくなったね。…ご名答だよ」  なんて言葉でおどけて見せても、表情は引きつっていた。彼女への好意が、勘違いであったように、共犯者という事実も単なる考えすぎであればよかった。  白日の下に晒された真実は、幸福も不幸も呼び寄せるのだ。真実にたどり着けなければ、どうしても知りたいと足掻き苦しみ、真実にたどり着くと、知らなければよかったと苦痛に顔を歪めた。真実は所詮誰も幸せにはしないのだ。
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