第十四話

6/6
前へ
/36ページ
次へ
「あ、これじゃないですか?」  彼の声で我に返り、私は差し出された携帯を受け取った。すぐ柊家に戻る気にもなれず、グラージェに一泊して、朝帰りしようかと考えていた。その時、思わぬ人物から飛びとめられた。 「瑠夢!」  聞き覚えのある声が、よく響いた。ここにいるはずがない。柊がどうして? 突然のことに頭がついていかなかった。  遺体捜査官が勤務するのは、この本部だけで、一か所しかないのだから、当然柊も知っていた。しかし、中まで入ったことがない柊が、なぜ来ていたのか。彼は探偵だから、仕事で用があったというわけではないだろう。  私が混乱している間にも、柊はこちらへ向かって、歩いてきていた。その様子は明らかに、敵意と怒りがこもっていた。よく衝突はしていたが、ここまで強い感情を向けられたことはなかった。私は柊が自分の全く知らない別人に思えて、思わず後ずさりした。柊はその瞬間を、見逃さなかった。  パンッ 「朝霞さん!」  本当に、よく響いた。頬が赤くはれて、口内を切ったのか、血の味がした。柊に殴られた反動で、私は尻もちをついた。 「あの時は聞かないと言ったよな?今すぐここで答えてもらう。どうして璃夢を探さない!もし煉が同じ目にあったら、また別の捜査官に押し付けて逃げる気か!?」  それで怒っていたのか。まさか、仮定の話で煉君を出してくるとは思わなかった。煉君にそんなこと、出来るはずがない。しかしどこかで、血がつながっていないことが、理由の一つになっていた。  血族関係がある人間の死は、誰でも認めたくない。当然だが捜査でいつも通りの力を発揮するのは難しい。私と煉君の場合は、これに当てはまらないからこそ、ショックはあっても、捜査できるだろう。やはり私は、冷酷なのだろうか。  あれ、前にもこうして誰かに、殴られたような気がしてきた。いつ?誰に?
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加