第十一話

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 ―記憶が戻りかけているのかもしれない―  私は迷った。若葉社長はともかく、柊先輩には話しておくべきだろうか。いやだめだ。余計な心配をさせてしまうだろう。本当なら今すぐにでも、舞唄を問い詰めに行きたいが、私は行き先を変更した。  向かった先は柊探偵事務所だ。高瀬さんは探偵の発想がないようで、挙動不審で落ち着かなかった。私は盛大な溜息を吐き、事務所へと足を踏み入れた。そこで目が合った柊は驚いたが、そのあとで納得した表情を見せた。  まさか  私たちをソファに誘導させて、柊はその向かいに腰を下ろした。 「何で璃夢を捜索しないのか、今は聞かないでおく。それで用件は何だ?」  予想は的中した。入れ違いにはなったが、ここに舞唄が来たのだ。  私は遺骨の引き渡し時に、彼女に頼んでいた由利さんの写真から、カラーコピーさせてもらったものを机上に置いた。 「斉藤由利さんと交友関係があった、全ての人を知りたい」 「あった、か。調べておこう」  柊探偵事務所を出たあと、急激に疲労を感じた。舞唄のことで神経をすり減らしすぎたのだろう。限りなく黒に近いグレーとは、まさに今の舞唄にしっくりきた。それでもまだ疑いたくなかった。しかし彼女はここにきて何をしていたのか、全く気にならないと言えば、嘘になるのも事実だ。  彼女は徹底していた。家に訪ねてくる時も、近くを通ったという、いい加減な理由では来ない。生まれも育ちも祇園で、根っからの京都人だ。理由もなく会いに来るなどありえない。だからこそ千歳さんの件で、ここへ来たとは考えにくい。何か別のことで来たのだろう。
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