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あなたは、色白で細身なことを気にしていたけれど。私は、あなたのその背中が好きだった。
華奢に見えるけれど、意外と肩幅があるところとか。肩甲骨のあたりの、滑らかなラインとか。
あなたが自分では嫌っていたものを、
あなたが自分では気付かないところを、
あたしは愛した。
あたしの部屋には、エアコンがない。
網戸から生温い風が流れ込み、扇風機がそれを掻き混ぜるだけの蒸し暑い部屋で。
あなたが、少し唸りながら寝返りをうつたび。
夜が明けなければいいのに、と何度も願った。
だけど、もうすぐ夜があけてしまう。
青白く染まった部屋の中で、テレビや本棚の輪郭がだんだんはっきりしてきた頃。新聞配達の、バイクの音がきこえてきた。
カーテンの隙間から、オレンジ色の一筋の光が差し込んでくる。
その光の筋は、あたしの部屋のポスターの一点をまっすぐ照らしている。
夏の明るさは、逆にさみしい。
こんなに明るいのに、もう少ししたらあたしは一人になってしまう。
この無防備な背中を見ることは、もう、ないんだ。
このまま、ここに。
もう少しだけ、ここに。
ここに・・・居てほしい。
心臓にグッと力を入れて、祈ってみるけど。
あたしに関係なく、空は今日を始めてしまう。
ああ、もう・・・よくわからないや。
彼を起こさないように、そっと髪を撫でてみる。
柔らかな巻き毛が、指に絡まる。
たぶん、もうできることはない。
だから、せめて・・・。
彼が目覚めるまで、できるだけこの寝顔を・・・
眼にやきつけておこう。
もう、おとなしくしてるから。
あなたが目覚めたら、祈りなど捨て去るから。
どうか、今このときだけはー。
今日も暑くなりそうだな・・・。
カーテン越しに日差しを感じながら、あたしは静かに泣いた。ー完ー
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