序 この世界の終わりと始まりと

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 充分に発達した科学技術は魔法と区別がつかない――  もはや区別をする必要もなくなった。科学という概念そのものが希薄になってしまった今の時代、この世の理は全て、魔法が支配していると言ってもいい。旧時代の科学が魔法の域に達してから以後、かつての科学者たちは魔術師と呼ばれる存在になり、魔術師たちは新たな理を生み続けている。  この世に本当に神様がいるならば、人間たちがしていることをなんと愚かなことかと嘲笑うだろう。  思い描いたことを現実のものとする力を手にした人間が思い描くことなど、ろくなことではない――神様はきっとそう思い、天罰を下すのではないだろうか。  科学が生きていた時代は神を信じる者も少なかったらしいが、魔法が存在する今の世界なら、神が存在していてもおかしくない。現に、悪魔の姿を思い描いた人間によって悪魔は生まれ、悪夢を思い描いた人間によってこの世界は悪夢を見た。  神を思い描いた人間も居ただろうはずなのに、神が人間の前に姿を現さないのは、やはり人間たちに天罰を下したいからなのだろう。  神の救いがないのなら、人間は自らの手で救いの道を切り拓かなければならない。  だから、彼は戦う。  二つの魂をその身に宿し、神に見放された世界で――魔術師として。
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