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可能性が見つからない。ヴィクはそう言った。
きっと本人だけではなく、誰が見てもヴィクの脱走は無理だと断言するだろう。
暗殺などの裏社会を基としているとはいえ、ヴィクも人間だ。
たった一人の人間が、多数の人間を相手にしたところで結果は見えている。
「もし可能性が見つかれば、生を望むか?」
「……復讐のための生なら、望む」
その言葉に、男は口元を緩めた。
ヴィクの返答は、とても人間らしくおかしな答えだった。
復讐のための生。だがそれは、結局自分のエゴのためだ。
命を奪われた当の被害者が復讐を望まざろうとも、関係なしに他人によって進められる復讐。
今まで何度も似た状況に遭遇したが、男から見れば滑稽でしかなかった。
けれども、ヴィクの場合は違うのだ。
彼は全てを理解した上での復讐。まさに、自分のための復讐だった。
玩具を壊された子供。その子供が仕返しに、相手の玩具だけにとどまらず、関係のない子供のものまで壊していくような感覚。
理不尽で残酷な、人間らしくもあり、人間らしくない。
そんな姿がとても、男の目にはおもしろく映った。
「ヴィク」
「なんだ」
「俺がもし、お前の可能性になれるとしたら、どうする」
男が鋭い目を細めて問う。
自分は可能性になることが出来る。そう言わんばかりの問いに、ヴィクは男の意図を探る。
この男を可能性にすれば、きっと自分は脱獄が出来てしまうのだろう。
それだけの力が彼にあるのを、ヴィクはついさっき己の目で見ている。
だが、自分を助けることに一体何のメリットがあるというのか。それが分からずにいた。
「……使えるものは、使えなくなるまで使う主義だ」
「ほう」
「だが、あんたを使うにはリスクがでかすぎる。あんたの目的が分からない限り、使うことは出来ない」
全ては、今までの経験で学んだことだった。
使えるものは、限界を超えるまで使う。それには人も道具も関係ない。
持っている手段全て使わなければ、待っているのは死のみ。
そんな世界でヴィクは生き延びてきたのだ。
そして、強い力を持ったものほど、後の代償が大きい。
これは、払った金額同等のものしか買えないのと同じ、当然のことだ。
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