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「おい!起きろ!」
煙草の吸い過ぎで掠れたガラガラ声の怒声。それと同時に与えられた鈍い痛みに、ヴィクは目を覚ました。
寝起きで働かない頭で現在の状況を考える。
自室ではない、石で出来た薄暗く湿った部屋。そういえば、とヴィクは思い出す。ここは監獄だ。
自分を襲った鈍い痛みの正体。これは恐らく、この耳障りな声の主に殴られたのが原因だろう。ここに来てからは毎日この起こされ方だ。
段々と慣れつつあるとはいえ、殴られて起きるのはかなり気分が悪い。
ヴィクは自分を殴った看守を睨み付けた。
「おい、何だその目は?囚人、しかも死刑囚ごときがこの俺に逆らうのか?あ?」
怒りで顔を赤くし、体を震わせた看守の腹がタプンタプンと揺れる。
偉そうにしているこの看守だが、看守の中ではそう偉くない。下っ端の立場であることをヴィクだけでなく、ここの監獄の囚人皆が知っている。
だからなのだろう。それをネタにからかう者、わざと怒らせて笑う者が後を絶たない。
ヴィクは後々が面倒なのでしないが。
「いつもいつも俺を馬鹿にしやがって!!今日こそ、半殺しに」
「何をしている」
反応を示さなかったのを馬鹿にされたと勘違いした看守が、真っ赤な顔をさらに赤くし体の震えが大きくなる。
握られた拳が振り上げられた瞬間、とてもよく通る声が掛けられた。
そして、看守の動きがピタリと止まる。怒りで赤くした顔が似瞬時に強張り蒼白に染まった。
「グ、グラディ様……っ」
「……ここはお前の担当場か?元の担当場へ戻れ」
「は、はいぃっ」
看守は先程までの偉そうな態度はどうしたのか、と思うほどの情けない声で逃げるように去って行った。
この場に残されたのはグラディと様付された看守とヴィクの二人だけだった。
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