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「ヴィク、だったな」
ふぅ、とため息を吐いてグラディがヴィクに話し掛けた。
まさか話し掛けられるとは思っていなかったヴィクだが、敵意が無いと分かるとこくんと頷きグラディの赤く光る宝石のような目を見る。いつのことだか分からないが、どこかで見たことのある顔だ。
「アイツが、すまないな。いつもこんな感じなのか?」
「……あぁ、少なくとも俺が来た頃には既に」
「そうか」
先程の看守が去って行った方向を見つめながら二人は話す。
ヴィクは嫌悪。グラディは呆れ。共通するのはあの看守にいい印象を抱いていないこと。
何にせよ、彼の人間性はそういうものであったということなのだろう。
はぁ、という二度目のため息を吐いてグラディはこめかみを押さえた。部下に困っているのだろうかとヴィクは首を捻るが、自分には関係ないことだと解釈すると考えることを止めた。
「……殴られたのか?痣になっている。湿布を貼っておけ」
「いらない」
「俺が見たくないだけだ」
言うが早いが、グラディは腰のポーチから一枚の湿布を取り出してヴィクの頬に張り付けた。そしてそのままぺちりと湿布の上を軽く叩き、小さな呻き声が漏れる。
グラディはそんなヴィクを見て小さく噴き出すと、くすくすと笑いながら牢の外を指差した。
「ほら、そろそろ朝食の時間だろう?遅れたらペナルティだぞ」
どんな事情があったにせよ、規律を守れなかった者にはペナルティが科せられる。そのペナルティはどれも厳しいものばかりのようで、一度受けた者はそれ以降規律を乱すことは無かった。
そんなペナルティは誰もが受けたくないに決まっている。勿論、ヴィクもその一人だ。
「……ありがとう」
ヴィクはまだ笑いを堪えているグラディに、むっとしながら礼の言葉を述べた。不本意とはいえ、殴られた患部の手当てをしてもらったのだ。常識を知らない訳ではない。
そんなヴィクの言葉にグラディは一瞬呆けたかと思うと、口元を緩めて早く行けと言うように手を振った。
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