第1話

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お世辞にも美味しいとは言えない朝食を食べながら、ヴィクは思考を巡らせる。先程のグラディという看守のことだ。 彼は他の看守とは何かが違う。様付けされていたのだから上の方の者なのだろうが、それにしても囚人……ましてや自分のような死刑囚に対してあまりにも普通だった。 色々と考えている間に朝食を食べ終えていたようで、ヴィクは手を合わせてお盆を返す。監房に戻ろうと道を引き返した時だった。 「ほら、あいつだろ?最近入って来た死刑囚って」 「あぁ、なんだっけ。あれだろ?王族殺し」 「王族殺すなんて勇気あるよなぁ」 ぎゃはは、と笑い声が響く。 その声の主たちを一瞥し、ヴィクは歩みを進める。朝食は済ませたのだからこれ以上ここに居る必要なんてないのだ。 彼らの言う王族殺しが自分のことだというのは知っている。その時自分はその場に居て、ナイフをしっかりと握り、横たわる赤い物体の前に血まみれで立っていたのだから。 たとえ、殺した記憶が無かったとしても、この状況を見る限りでは誰もがヴィクのことを犯人とするのだろう。ヴィク自身、自分が殺したのだと受け入れていた。 記憶が無くとも、感触が残っている。柔らかいが硬くもある、そんな何かを刺して裂いた感触が。何度も何度も繰り返した作業の疲労感と共に残っていた。 それさえあればもう、逃げる理由も見つからない。未練がない訳ではないが、どうしようもないのだ。 この復讐だけは成し遂げたかったのだけれど、とヴィクは昔からほの暗くジリジリと心の中をじっくりと焼き続けている炎に向かって呟いた。 「ナイフ」 ぼそりとヴィクは口の中で呟いてみる。が、やはり何も現れない。 恐らく手首に巻かれたブレスレットが魔力の流れている管を遮っているのだろう。魔法が使えなかったので、魔武器ならどうかと思いやってみたのだが、やはりこちらも使えないようだ。 ブレスレットを引っ張ってみるが取れる訳もなく、ただ手が痛くなるだけだった。
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