第1話

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監房に戻り、質素なベッドに横になる。きっとこのまま眠ってしまえば、起きた時には夜になっているのだろう。 夜が来ること自体は問題ない。むしろ、夜の方が心地いい。 ただ、処刑執行日が着々と近づいているこの現実が悔しい、と。心の中の深い場所がざわざわと騒ぎ立てる。かと思えば、暗い暗い炎が燃え広がり始めた。 「っ……い、ぁ…」 瞬間、首に痛みが走る。左側の首筋が焼かれているみたく痛み、そこから痛みが広がるかのように体全体を痛みが支配した。 突然の激しい痛みに朦朧とする意識の中で、ヴィクは左側の首筋にあるものを思い出す。 (左の、首筋……た、しか…あの、痣が……) それを思い出し認識した時、ヴィクの視界いっぱいに深紅の色が散らばった。ひらひらと舞い落ちるそれは絨毯のように監房の地面を埋め尽くす。 そして風の吹くはずのないジメジメとしたこの空間に、突如強風が現れた。地面を埋め尽くしたそれを巻き込み、竜巻のようになり荒れ狂う。 本来の竜巻であるならば、ヴィクも容赦なく強風の渦に巻き込まれていたはずだ。だが、この竜巻はヴィクを巻き込むことはなく、深紅の色をして監房の中心で渦を巻き続けている。 「な……んだ、これ」 いまだに消えない痛みを堪えながら、ヴィクは呆然と呟く。普通ならば有り得ない光景がそこにはあった。 ヴィクがいるのは死刑囚の収容されている監獄で、それぞれの監房は自殺防止の為の工夫がされている。 その一つとして、ここの窓は開けられない。そのため、外から風が入らないようになっているのだ。 とても高い位置に設置されているこの唯一の窓だが、人の力では割ることが出来ない強度を持っている。魔法も同様で、打った魔法は跳ね返り囚人へと返されるように仕組まれていた。 その為、この監房に風が吹くこと自体が有り得ない光景なのだ。
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