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渦を巻く竜巻は次第に速度を落として行き、深紅の色もゆっくりと地面に落ち着く。かと思えば、その色は地面には無く、地面にはブーツのような硬そうな靴があった。
ヴィクは視線を地面から靴へ移し、靴を辿って上をゆっくり見上げる。
「お前が、印の持ち主かぁ?」
突然言葉を発したそれは、上半身に布を纏わず鍛え上げられた肉体を惜しむことなく晒す。先程の深紅の色をした髪と瞳に、頭から生えた黒く光る角。かなりの長身であろうそれは、男のようだ。
そしてその首筋には――ヴィクと同じ、薔薇の痣があった。
「……し、るし?」
印と言われても、ヴィクは何のことだか分からない。思い当たるものが頭に浮かばないのだ。
ヴィクは痛む体をゆっくりと動かしながら、男を見て首を傾げる。
「あぁ、印だ」
「……俺は、何もないっ…ぞ」
「いやいや、ちゃーんとあるじゃねぇか。その首の痣、それが証拠だ」
男はヴィクの首を指差す。いつの間に至近距離に来たのか、男の長く黒い爪が首筋に触れる。
瞬間、ヴィクを襲っていた全身の痛みが嘘だったかのように跡形もなく消えた。男が治癒魔法を使ったのかと思ったが、魔力を感じないことからすると違うようだ。
「どーだよ、痛くなくなったかぁ?」
男の問い掛けにヴィクが頷くと、男はそうかと笑みを浮かべた。が、ヴィクには彼の笑みがニヤリと効果音が付きそうな悪どい笑みに見えている。
しかし、敵意や悪意は全くと言っていいほど感じられない。ヴィクは、この男は元が強面なのだろうと納得することにした。
「やっぱりお前だな」
「へ?」
「印持ってるし、俺が触れたら痛みも消えた。やっと見つけたぜぇ」
男は今度こそ本当の意味での悪どい笑みを漏らす。ヴィクは男の言っている言葉の意味を考えながら、悪どい笑みではあるが少し嬉しそうだな、と人事のように男を観察していた。
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