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「やっと……?」
ヴィクは男の言葉に小さな引っ掛かりを感じ、気になった箇所を口の中で繰り返し、ふと浮かんだ疑問に首を傾げる。
「あぁ、やっとだ。俺はお前の存在を知ってたが、お前のことは初めて知ったけどなぁ」
「は?」
意味がよく分からない。男は矛盾した言葉をヴィクに吐き、ニヤニヤと楽しそうに笑う。
存在を知っていながら、初めて知った。
この矛盾した言葉の意味が何を表しているのか。今のヴィクには到底分かるはずも無かったが、男は教えるつもりは無いらしい。
ニヤニヤとヴィクを見ているばかりで、続きを発する様子は無かった。
「俺のことを知っていたのか?」
「今知った、って言っただろぉ?」
「じゃあ知らなかったのか?」
「存在は知ってたぜ?」
言葉の意味を問うが、男はニヤニヤと同じことを繰り返すばかりでヴィクの期待する答えは返されない。
さすがに欲しい答えを貰えなければ、ヴィクとてイラつきを見せ始める。
「お前にはまだ分かんねぇことだ。その首の証の意味も知らねぇんだろぉ?」
「この痣の、意味……?」
仕方がないと言うように肩をすくめ、男は意味深な答えを返す。
二人の共通している首の痣。これには意味があるのだと、男はヴィクに言った。
生まれつきのものとして捉えていたヴィクは、この痣が意味のあるものだと思いもしなかったのだろう。思い当たる説がない。
「子供の頃に憧れる伝説の話はねーのかぁ?」
「……胸糞悪い話なら、一つだけある」
ヴィクの知る伝説の話。それは小さな頃に皆が親から読み聞かされる話の一つで、とても有名なものだった。
悪事を働く魔王を仲間と苦戦しながら退治する伝説の勇者の物語。
子供達の憧れであり、悪と正義を固定付けられた、昔から伝わるおとぎ話のようなものである。
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