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髪を梳く男の手が、ヴィクの額に触れる。しばらくは手をあてがっているだけだったが、段々と撫でるような仕草に変わっていった。
そんな男の行動に、ヴィクは抗議するでも、払いのけるでもなく、ただされるがままになっていた。
「嫌がんねぇのか?」
「……別に、嫌じゃない」
「……っ、そうか」
ヴィクの返答に男は驚く。だが、それでも手が止まることはない。
男はただヴィクの額を撫で、ヴィクはされるがままにベッドに横たわる。それは子供をあやす行為にも見え、体調を崩した恋人を宥めるようでもあり、ペットを愛でる動作にも見えた。
ふと、ヴィクは違和感を感じ男を見上げる。
「何してるんだ」
「あー、バレたかぁ」
「そんだけの魔力纏ってたらさすがに気付くぞ」
見上げた先にあったのは、紅い光を纏った男の姿。
たしかに危害を加えるつもりは無いようだが、突然魔力を纏い出せば誰でも疑問には思う。しかも一般人の魔力を軽く超えた膨大な量なのだから、尚更スルーは出来ない。
「ま、禁忌魔法だからそりゃバレるよなぁ」
「は?」
男がさらりと告げた内容に、今度はヴィクが驚く番だった。
禁忌魔法。それは遠い昔、賢者達に禁じられた魔法であり、今では術そのものが忘れ去られたに等しい存在の魔法。
そんなものを何故、この男は知っているのか。そして、今この場で使おうとしていたのか。ヴィクには見当も付かなかった。
「あぁ、安心しろよ。お前に害はねぇし、禁忌って言っても危険なモンじゃねぇやつだからよぉ」
「そういう問題じゃないだろ……」
「ちょっとお前の記憶覗いてるだけだからよぉ」
「そうか……って、おいちょっと待て」
問題無いと言うように男が告げたので、ヴィク自身もさらりと流しそうになったがさすがにそうはいかなかった。
危険ではない、たしかに危険ではないかもしれない。だが、記憶を覗いていると言われ、はいそうですかなんて言える訳がない。
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