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扉が閉じ切って、
私はようやく
その場に崩れ落ちた。
バッグにねじ込んだ携帯を出す。
指は無意識に
リダイアルを押していた。
『もしもし?』
甘く響く、
蜜のような低音。
すがる思いで口を開いた。
「やっぱりシたい」
『……どうしようかな。
もう家に着くんだ』
「お願い」
間髪入れずそう続けた私に、
温人さんは
「冗談だよ」と笑った。
『奈々緒のお願いなんて珍しいもの、
袖にするわけないだろう』
迎えに行くよ。
その言葉に、私は心底安堵した。
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