薄氷

14/14
4543人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
扉が閉じ切って、 私はようやく その場に崩れ落ちた。 バッグにねじ込んだ携帯を出す。 指は無意識に リダイアルを押していた。 『もしもし?』 甘く響く、 蜜のような低音。 すがる思いで口を開いた。 「やっぱりシたい」 『……どうしようかな。 もう家に着くんだ』 「お願い」 間髪入れずそう続けた私に、 温人さんは 「冗談だよ」と笑った。 『奈々緒のお願いなんて珍しいもの、 袖にするわけないだろう』 迎えに行くよ。 その言葉に、私は心底安堵した。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!