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祖父の代から続くここは、小さな個人病院。
地域に密着しているからこそ妙な噂は命取りになる。
看護婦はともかく患者には絶対に手を出すな、それがうちの教え。
それなのに。
「……参ったな」
あの日から幾度となく溢れた溜め息。
昔から悩み続けていたことが、今になって目の前に突きつけられた気分だった。
学生時分、自慢じゃないがそれなりにモテた。
勿論、女に。
何度か付き合ったこともある。関係を持ったことだってある。それでも自分の中にある違和感がどうしても拭えなくて。
そんなことを何度か繰り返して、ようやく認めた。
自分が欲情するのは男だけだと言うことを。
こんなこと、誰に言っていいかもわからなくて悩みに悩んだ。
親友だと思っていたヤツには打ち明けた途端に避けられるようになった。
流石にヘコんで。
誰にも言えなくなって。
気がつけば三十路直前と言う、親に見合いを勧められる程の歳になっていた。
それなのに──
綺麗な身体だとは思った。
引き締まった筋肉、滑らかな肌。
コロコロと表情を変える子犬みたいなやんちゃなガキ。
最初はただそれだけだった。
けれど来る度に、言葉を交わす度に、触れる度に、段々、目が離せなくなって。
それで、気が付いた。
俺を見るその目の奥に見え隠れする感情に。
もしかして、こいつも? と。
そう思ったら尚更あいつが気になった。
それでも、確証もないのに医者である俺から手を出す訳にはいかない、なんて理由を盾に密かにあいつから動いてくれることを待っていた、のに。
この前の、アレ。
一人冷静になって考えてみれば、半ば強引ともとれるあの行為。
親友とのとこもあって、実はまだ、少し不安だったりする。
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