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「……ふー……」
すっかり冷めたコーヒーを一気に飲み干して立ち上がる。
どうも落ち着かない。
患者で年下、加えて男同士。
期待や不安、そして現実的なこと──様々な思いがない交ぜになって俺のなかをグルグル回る。
乾いたスリッパの音を鳴らしてロビーに向かったのは、そんなざわつきをさっさとはっきりさせたかったからだ。
……いた。
透明な硝子の二重扉の向こうには、茶色い頭に制服の見慣れた姿。
明らかに挙動不審なのはあいつも色々と思うところがあるからなのか──単に入る勇気が出ないだけか。
「……ぷっ」
百面相でドアに手を伸ばしたり引っ込めたりしているそいつに、思わず笑いが漏れた。
さっきまでの難しい感情がすっと溶けて。
ゆるりと、口角が上がる。
──来た
それだけで心が沸くのだから、仕方ない。
幸い外の明るさでこちらの姿はまだ気付かれていないらしい。
あいつが何やら頭を抱えて他所を向いていた隙に、無人のロビーを突っ切ると、俺はその扉を自ら開いた。
「……ずっとそんなところにいたらおかしいだろう? さっさと入ればどうだ?」
溢れた笑みを、不敵なものに変えて。
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