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二月ももう半ばだというのに、数日前からの寒波で外はちらちらと雪が舞っていた。
ホワイトバレンタイン。
言葉にすればロマンチックな響きだが、実際はただ寒いだけだ。
「どうぞ」
いつからあそこにいたのか、すっかり鼻の頭を赤くしたそいつに新しく入れたコーヒーを差し出す。
「……ありがと」
俺の目の前にある患者用の丸椅子には流石に座りづらいのだろう、小さく呟いたそいつは診察台に腰を下ろす。
その無防備さと、不機嫌そうに眉間にシワを刻む様子に再び笑みを浮かべて。
軋んだ音を放つ椅子に背を預けた。
静かな部屋で、湯気のたったマグにチビチビと口をつけるそいつ。
苦そうに眉を寄せてその茶色い水面を睨みつけたり、目を游がせたり、溜め息をついたり。
そわそわと落ち着かない動きは見ていて飽きない。
「……何」
「いや、砂糖、いる?」
「……いらない」
天の邪鬼め。
どう見てもやせ我慢なその顔を見ていると、つい虐めたくなるのはどうしてなのか。
好きな子を虐めたくなるというアレなのか。
大人でありたいという小さなプライドか。
それとも、余裕だと、虚勢を張りたいだけなのか。
……いい年してるクセに。
自嘲染みた笑みをふっと溢し。
「今日は何をしに?」
いつまで続くかわからないこの微妙な空気を変えるべく、さっさと本題に移ることにした。
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