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「っ」
途端にカッと顔を歪ませたそいつの反応はやはり予想通り過ぎて、楽しい。
「ないの? チョコレート」
正直なところ、不安もある。
でも今はそんなものよりも目の前のこいつに湧く感情の方が大きくて。
あえて掛けている度の弱い眼鏡を外し立ち上がると、まだ半分ほど残るマグを取り上げて近くにある棚へと置いた。
どちらももう、邪魔なだけだから。
「っ、センセーチョコは嫌いだって……」
その余裕なく慌てる姿にも加虐心が擽られて、自然と笑みが深くなる。
休診日に身一つ。
お前だってそのつもりでここに来たんだろう?
「なら、診察?」
グ、と軽く胸を押せば、その体は呆気ないほど簡単に後ろに倒れ込む。
安っぽい金属の音を立ててそいつの隣に掌をつくと、複雑に揺れる瞳を見下ろした。
「それとも、食われに?」
「っ」
言いつつ、シャツの裾から指を滑り込ませる。
そこに触れる肌はやはり滑らかで、たくし上げたシャツの下に見えた体には、この前の痣ももう殆どわからなくなっていた。
やっぱり──
「綺麗な、体だ」
「センッ……」
つ、と腹を指で撫でて、軽く唇で触れる。
ピクリと跳ねた身体はこんなにも正直で。
そんな反応をされたらもう、止まらなくなる。
「言っとくけど、今日は味見じゃすまないから」
「え、……むっ」
何かを言いかけたその口に噛みついて。
その柔らかな熱に今まで抑えつけていた何かが弾けて、じわりと溢れ出す。
簡単に俺の侵入を許したその口内に仄かに残るコーヒーの薫り。
苦くて、でも甘い口付けは、今の俺たちそのもの。
「んっ……ふ」
絡めた舌から響く微かな水音。
恐る恐る、だがすがるように腕を握るそいつに、微かに残っていた理性も霞んでいく。
背徳感は甘い熱を孕んで欲に変わる。
チョコレートは嫌い。
でもこの甘くて苦いプレゼントには、どっぷりとハマってしまいそうな予感が、する。
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