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歩く度首にさわさわと触れるストールを少しずらし、息をついた。
今日は日曜日で、芽衣は久しぶりに美智子さんのところへ行っている。
だからというわけではないが、俺はまた自分の実家にやってきた。
何の約束もしていないが、両親が休みの度にどこかへ出かけていくタイプではないことは昔から知っている。
季節は刻々と秋めいて、風の中に冬をはらみ始めている。
少し傾き始めた陽の光を受けながら、小春日和ってこんな日のことだっけな、と思った。
いつからだろう、こうして季節の空気や匂いを味わい始めたのは。
忙しく過ごす日々の中、日常のふとした場所、あちこちに自分を取り戻す要素は落ちていると最近は思う。
俺はそうのんびり屋な方ではないが、こうして度々息をつくことが心地よいと感じるようになった。
こういうのも、ゆっくりと我知らず熟していく人間の処世術ってやつだろうか。
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