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実家の玄関の前で軽くそんなふうに深呼吸をしてから、鍵を開けてドアに手をかけた。
「あら、あらあらあら」
いつまでもどこか小娘のような雰囲気を崩さない母ちゃんが、鍵の音を聞きつけて出てきた。
「どうしたの。今日は梓ちゃん、呼んでないけど」
「ったりめーだろ。何言ってんだ。……ただいま」
「はい、とりあえずおかえり」
手に提げていた駅前の和菓子屋の紙袋を母ちゃんに渡した。
中身は、お決まりの金つば。母ちゃんはこれを与えると機嫌がいい。
「ま、ありがと。お茶淹れなくちゃ」
「あ、俺コーヒー欲しい」
「はいはい」
言いながら炬燵のある居間に足を踏み入れると、何やら難しい顔をして雑誌を開いている親父と遭遇した。
「よお」
声をかけてようやく気付いた親父は、左の眉をぴくりと持ち上げる。
手にしているのは、ここ数年俺が読んでいるのと同じ経済誌だった。
「なんだ、いきなり」
「嫁さん、お義母さんちに遊びに行ってて」
「だからってお前まで帰って来なくていいだろう」
「ま、そう言うなよ」
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