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コーヒーに口をつけると、親父も同じように茶に手を伸ばす。
「……司郎」
「ん?」
「何か、話があるんじゃないのか」
しれっとした口調でさらっと言われ、思わずコーヒーを吹きそうになった。
「なんで」
「何年お前の父親をやってると思ってるんだ」
いつもは仏頂面で、笑顔なんて滅多に見せない親父の口の端がニヤリと上がる。
……枯れかけのくせに。
心の中で軽くそう毒づいてから、溜め息をついた。
もっとガキだったころなら、見透かされるだけで腹が立ったものだ。
が、そういうのはもうなくなってきた。
見透かしていることをあからさまにする人間は、悪いやつばかりじゃないことくらい、知っている。
「お気遣い、痛み入るよ」
「皮肉な言い方をするな」
「俺が皮肉屋なのは、今に始まったことじゃないと思うけど」
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