第3話

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化粧室に立ち寄った後、エレベーターで下に降りる。 ビルの外に一歩踏み出ると むんっとした圧迫感を感じた。  蒸し暑い。 街路樹の木陰に立ち、 携帯のメールを開くと和也さんから “18時30分くらいにそっちに行ける”とある。 あたしは “地下鉄④番出口のポスト付近にいるね” と返信した。 待ってる間、駅地下の本屋で立ち読みでもしようっと。 そんなことを思いながら 大通りに出て歩いていくと、 「――七海、」 自分の名前を呼ぶ男性の声をキャッチして、ギクリとした。 どうしよう。 いや、大丈夫。 この声の遠さなら“聞こえませんでした”と言っても 許される範疇だ。 瞬時に頭の中の電卓をたたいたあたしは、 歩みを止めるどころか逆に早足に速度を変えた。
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