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時々無性に寂しくなるのが、その銀髪の青年の密かな悩みだった。
確かに親は、彼がまだ幼い内にこの世を去った。
しかしだからといって、天涯孤独の身というわけでもない。
いつも側には大事な妹のセレンがいる。
困った時にはアーサーや、村人たちが助けてくれる。
『魔物』という存在がいるこの世界で、間違いなく彼は幸せな人間だ。
なのに、なぜ。
丘の上で夕日を見る時。
行商人の珍しい品物を見て回る時。
村総出で小さなお祭りをしている時。
どうしても彼は傍にいるはずの誰かを探してしまう。
名前も顔も、本当にいるのかすら分からない誰かを。
そんな時は、左手にはめられた指輪を外し、握りしめる。
心に空いた穴を埋めるように、強く、強く。
小さな透明の石がはめこまれただけの、シンプルな指輪。
物心ついたときからずっと彼のそばにいて、彼を慰めてくれた。
そして、今も。
目の前に広がる、不気味なほど濃い緑色の草原を睨みつける。
これから繰り広げられるであろう戦闘へと集中力を高めながら。
彼は静かにここに来るまでの事を思い出していた。
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