Sunset

2/8
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 殴って、しまった。  瞬時に『体罰』、『教育委員会』、『わずらわしいPTA』といった単語が脳内をかけめぐったが、あとの祭り。  それに俺がこいつらに何かしらを教える事は、もう叶わない。 「お前みたいなヤツがいるから……お前みたいな……」  同じ言葉を繰り返す事しか出来ず、握りしめた拳は感情を抑えようとしても震え、情けなさが込み上げた。 「くだらない、全てが馬鹿らしい」  唇の端と端を親指と人差し指で押さえながら、中島啓太は告げる。  まるで何かに取り憑かれたように、再び俺の手は挙がる。しかし、もう一度中島の頬を叩く事はなかった。 『じゃあ、アンタに何が出来る?』  中島の目は俺を責めているようで、逃げるみたいに進路指導室を後にした。  わかっている……わかって、いたんだ……でも、俺には………。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!