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「…なんで名前で呼ぶんだよ」
雅から目を逸らす明。
この数年間ずっと近くにいた明と雅。
初めから雅はノートを見ると体調を崩すことがあった。それを聞かされ知った明は近所ということもあり雅に勉強を教えてきた。
瞬間記憶能力のおかげで教える手間はさほど苦労ではなかったものの、雅が理解できない問題の説明は長時間に及んだ。それはテスト前日や期間中を問わずであった。智花には嘘をついたが、明は寝不足などから来る疲労によりテストに集中できないことは多々あった。
「だってアキアキより、明くんて呼ばれたほうのがいいんでしょ?」
「だからってなんで今さらなんだよ!」
隠しきれなくなった怒りを露わにする明。
「お前のノート嫌いが実は嘘で、今日の俺と智花先輩との話も盗み聞きして!なんなんだよ、お前は…何がしたいんだよ!!」
「私はただ、明くんと一緒にいたいだけ」
夕日に染まった空を見上げる雅。
「昔はいつも明くんと一緒だったよね」
遊ぶ時や様々な時間を雅は明と共に過ごした。それは2人にとっても楽しかった。だが、何にでも永遠というものは存在しない。
「年月が過ぎるほど私と明くんが一緒にいる時間は減っていくばかりだった」
雅はこれまで1人ぼっちというわけではなかった。親友と呼び合える存在だっていた。だが、雅の心には寂しさがあった。
「私は明くんと一緒にいたかった。昔みたいに楽しく笑って…。でも、明くんは昔と変わっていた」
昔のように親しく接すれば避けられ、よそよそしく「灰谷」と名字で呼ばれた。明にとっての雅はそういう人になっていた。
「だから、私は明くんに嫌がられても何度も近付いて、ノート嫌いなんていう嘘までついた」
雅の瞳に映る明がよく見えなくなっていた。
目を擦ると、手は濡れていた。自分の今まで溜め込んできた想いを話している内に涙を流していた。
「ごめん、明くん。今、止めるから」
雅は制服の袖口で拭うが、涙は何度拭おうとも流れてくる。
「…あれ、止まらないや。ごめんね、明くん。もうちょっと待ってて」
涙を止めようと必死になる雅。
だが、雅は不意に抱き締められた。
「あっ、明くん?」
突然の事に明に抱き締められた雅の顔は真っ赤になる。
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