0人が本棚に入れています
本棚に追加
「止めなくていいから。そのかわり、しばらくこのままにさせてくれ」
「えっ?えっ?明くん?」
戸惑いを隠せない雅。止めなくていいと言われたが、明の突然の行動に驚いて涙は止まってしまった。
「雅、智花先輩との話聞いていたんだよな」
「えっ!…うん」
久々に名前で呼ばれたことに小さく驚いたが、平静を取り戻し二言返事をした雅。
「今日の話の中でさ俺、智花先輩に雅のことを好きなのかみたいなこと訊かれただろ」
「うん。なんかあの時の智花ちゃんいつもとキャラ変わってた」
「その時、俺は雅のことを好きでも何でもないただの幼なじみみたいに言ってさ」
「うん。それでその後、智花ちゃんに告白しようとしたけど運悪くチャイムが鳴っちゃったんだよね」
「あぁ。でも、俺あの時思ったんだ。俺は雅のことをどう思ってるんだって」
ノート嫌いの雅のために雅の家に行くことは度々あり、ほとんどの空き時間で明の隣に雅がいた。そして、雅は人前で恥ずかしがることもなく明を好きだと言った。
「そんな事を考えていたらチャイムが鳴った。智花先輩に告白が出来なかったことから余計に思うことが増えた。俺は本当に智花先輩に告白しようとしてよかったのかと」
成績優秀でいつも学年トップの智花。明にとって憧れの存在だった。そして、それは日にちが経過するごとに恋へと変わっていた。
「俺にとっての雅は本当にただの幼なじみなのか分からなくなっていた。そんな中、雅の気持ちを聞けた。そしたら、さっきまで抱えていたことが消えていったんだ」
雅の明を想う気持ち。それは自身と同じものだと明は気付いた。
「昔は傍に居すぎて気付かなかった。でも少しずつ時間が流れて、比例するように2人でいる時間は少なくなって徐々に気付き始めた」
今思えば、雅に勉強を教えることを拒んだことは一度もなかった。それは、もしかしたら雅といれる僅かな時間を大切にしたかったからかもしれない。
「俺はお前が好きなんだって」
「あっ…明くん」
声が震える雅。
それを察したのか、明は雅を離し、瞳を見つめる。
「“雅、好きだ”」
明は自身の唇を、雅の唇に軽く重ねた。
最初のコメントを投稿しよう!